墓石と戒名
最近、身のまわりが慌ただしくて更新ができていませんでした。
さて、今日は彼岸入りということで、墓石と墓石に刻まれる戒名について書いてみようと思います。
戒名とは
戒名(法名)は、もともとは受戒(出家あるいは帰依入信)した者に与えられたものでした。
ところが、在家の男女が死後に僧侶から「法名」を与えられるようになり、これも「戒名」と呼ばれるようになりました。
この種の戒名が、日本では中世末期ごろからみられ、近世の檀家制度のもとで一般的となり、戒名と言えば死後に授与されるものという認識が現代まで続いています。
墓石に刻まれるもの
墓石には、①種字(梵字)、②戒名、③没年、建立日、④置字が刻まれます。
戒名は2文字ずつが基本構成となります。
戒名の構成としては、△△院◇◇○○居士、◇◇○○信士、△△禅定門などが挙げられます(実際の戒名については後程ご紹介します)。
「△△院」の部分は「院号」、「◇◇」の部分は「道号」、「○○」の部分を「戒名」、「居士」の部分を「位号」と言います。
「戒名」と一口に言っても、各部分に呼び名がしっかりあります。
また、戒名(厳密には位号)には「格」があり、以下のものが多いです。
男性:大居士、居士、信士(清浄士)、禅定門、禅門、善男(清信士)、釋○○
女性:清大姉、大姉、信女(清浄女)、禅定尼、禅女、善女(清信女)、釋尼○○
他にも、院号として、院殿、院、庵、軒などがつくことがあります。
現代ではお金で院号をつけることができますが、江戸時代は信仰の深さや菩提寺への貢献度、社会的貢献によって授けられるものでした。
「院号&大○○」なんて戒名があったらその人は相当に社会的身分の高い方だったと思われます。
宗派別の戒名
戒名の道号を読むことにより、その人の宗派もわかります。
浄土宗…「譽(誉)」 西山浄土宗は「空」「道」
浄土真宗…釋○○、釋尼○○
時宗…男性「阿」 女性「弐」
臨済宗…特別な傾向はないが「庵」「斎」が使われることが多い
曹洞宗…熟字でまとめられる
日蓮宗…男性「法」 女性「妙」、「日」の字が入る
などです。
また、修験者(山伏)の場合だと、「権大僧都」や「法印」、「法眼」などが入ります。
大学時代に山形県鶴岡市にある羽黒山の山中にある墓石の調査をしたことがあります。羽黒山は出羽三山の一つで、羽黒派修験道と非常に深いかかわりがあり、山中には山伏の墓石が沢山ありました。
その時の感覚から言うと、羽黒派山伏の墓石にはかなりの割合で「権大僧都」あるいは「法印」つくものが多かったように思います。
「法眼」あるいは「法喬」というのも山伏の戒名ですが、あまり見かけませんでした。
羽黒派修験道については、また別の機会に 書きたいと思います。
実例で見る戒名
では、最後に実際の戒名をいくつかご紹介します。
①最長の戒名と最短の戒名
平清盛…浄海
浅野内匠頭長矩…冷光院殿前少府朝散大夫吹毛玄利大居士
平清盛は言わずと知れた武士として初の太政大臣となり、栄華を極めた平家の棟梁です。
浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)は、忠臣蔵に登場する、吉良上野介を松之廊下で斬りつけた赤穂藩主です。
同じ戒名ですが長さが全然違います。
初期の戒名はたった2文字という短いものでした。それが時代が経つにつれ、長くて豪華なものほど良いというようになっていきます。
②江戸時代の戒名
自性院秋天妙休法女(文政4(1821)9月22日没)
この人物の戒名を分解すると、院号が「自性院」、道号が「秋天」、戒名が「妙休」、位号が「法女」となります。
道号「秋天」に着目すると、この人物は秋に亡くなったと推定できます。
戒名にはその人物の生前の名の一部や亡くなった時期が入ることが多いのです。
この人物の生前の名ははっきりしませんが、亡くなったのは9月で、やはり秋に亡くなっていました。
最後に変わった戒名をご紹介します。
好酒呑禅定門
鯨飲酔眠信士
池岸頓入童子
これは数ある戒名の中でもかなりひどいつけかたをされています。
戒名はお坊さんから授けられるものなので、如何ともしがたいですが、ちょっとストレートすぎやしないかと思います…。
いずれも江戸時代の人ですが、上から2つは読んで字のごとく、酒好きだったとわかります。おそらくかなりののんべえです。
3つ目は、池に落ちて亡くなった男の子の戒名です。死因がストレートに反映されてしまっています。
このように、戒名からは生前の人柄や死因が入れられることもあるのです。
他にも、生前の職業にちなんだ文字が入ることもあります。
今回ご紹介したのは基礎的な戒名の知識です。
ただ、先祖探しをする上で、墓石はかなり重要な役割を果たしてくれるものと思います。
彼岸ということで、お墓参りに行った際は、ぜひ戒名に注意して見てみてください。戒名から会ったことのないご先祖様の人柄などを想像し、思いを馳せてみるのも良いかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。